東京高等裁判所 平成5年(行ケ)156号 判決 1995年9月26日
奈良県御所市元町309番地の3
原告
山名勉
同訴訟代理人弁理士
西沢茂稔
大阪市浪速区日本橋東3丁目6番17号
後藤産業株式会社内
被告
後藤功司
同訴訟代理人弁理士
鈴木ハルミ
同
倉内義朗
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が平成4年審判第11598号事件について平成5年7月23日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、名称を「履物用上底板」とする実用新案第1853182号(昭和61年10月13日出願、平成2年6月22日出願公告、平成3年5月10日設定登録、以下「本件考案」という。)の実用新案権者であるが、平成4年6月15日原告から被告を被請求人として本件実用新案登録について無効審判請求がなされ、平成4年審判第11598号事件として審理された結果、平成5年7月23日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年8月26日原告に送達された。
2 本件考案の要旨
1枚のEVA樹脂シートを成型して基板表面に多数の中空状の突起を突出形成し、該各突起の裏面は凹面となり、該突起が足裏の凹凸に対応した高低、大小等に形成するとともに該突起の裏面が基板裏面に開口してなることを特徴とする履物用上底板(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本件考案の要旨は、前項記載のとおりである。
(2)<1> 請求人(原告)は、その出願前に頒布されたことの明らかな実用新案登録願昭和60年第7904号(実用新案出願公開第123701号公報)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和61年8月4日特許庁発行、以下「引用例1」という。)、実用新案登録願昭和60年第7905号(実用新案出願公開第123714号公報)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和61年8月4日特許庁発行、以下「引用例2」という。)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、その登録は、実用新案法3条2項の規定に違反してなされたものであり、同法37条1項1号(平成5年法律第26号による改正前の規定)の規定により無効とすべきものであると主張する。
<2> そして、引用例1には、「サンダル表層部に足底面形状にそってそうよう多数の突起を有する健康サンダルに於て、サンダル本体の表面に設ける突起板に突起を多数突設すると共に、この各突起を中空状とし、且つその頂面に中央部頂面が少し盛り上り、その外周部を薄肉状とした凹凸形状としたことを特徴とする健康サンダル」(実用新案登録請求の範囲)であって、「このように合成ゴム、合成樹脂をもって形成される突起板3の各突起4は第3図に詳示する如くその中味を空洞とした中空状で」ある点(明細書4頁3行ないし5行)、「この突起4の中空部には突起板と本体との接合時空気が封入されるものである」点(明細書4頁15行、16行)が記載されており、第3図には、中空状の突起4の裏面が閉塞されたものが図示されている。(別紙図面2参照)
引用例2には、「履物内に挿入できるよう与め足形に裁断された中敷基板と、この表面にそわせ、かつ足裏面に接するようにして多数の突起を形成したる凹凸表板とよりなり、凹凸表板の導通突起の外周部と中敷基板とを気密的に係着して両板間の内底部が導通した突起を形成し、かつこの導通突起内に空気を封入せしめると共に、この導通突起外周接着部外周にそって少なくとも一列状の独立突起を形成し、かつこの凹凸表板を加圧による導通突起の変形及び復元可能な材質にて形成して成る履物用中敷」(実用新案登録請求の範囲)が記載されている。(別紙図面3参照)
<3> しかしながら、引用例1、2には、本件考案の必須の構成要件である「各突起の裏面は凹面となり」かつ「突起の裏面が基板裏面に開口してなる」点が記載されていない。
すなわち、引用例1記載の考案における中空状の突起4は裏面が閉塞されており、突起板(本件考案の基板に相当する)裏面に開口していない。
また、引用例2記載の考案における凹凸表板の導通突起は、1つ1つの突起が凹凸表板裏面に開口しているものの、全体としてみれば、導通突起の外周部で凹凸表板と中敷基板とが気密的に係着されることにより導通突起内に空気を封入せしめられていることから、本件考案の裏面を基板裏面に単に開口して気密性を要しない突起とは構成を異にしている。
そして、本件考案は、上記必須の構成要件を具備することにより、明細書記載の「封入空気を保持するための底面板および該底面板の完全な気密、密着による添設の手段や手間を必要とせず、封入空気による大きい空気抵抗の弾力ではない快い感触やマッサージ刺激などが得られ、上底板として本底への取り付けも厳密な気密接着などは必要でなく簡単な縫着でよい」という格別な作用効果を奏するものである。
なお、請求人は、被請求人(被告)の製品であると称するスリッパを提出して、本件考案の上底板も、使用時に上底板及び突起に体重がかかると、突起裏面の開口縁が履物の基板面に強く押されて突起内に空気を封入した状態になる旨主張しているが、該スリッパと本件考案との関係が不明であるばかりでなく、単に体重により突起裏面の開口縁が履物の基板面に強く押されただけでは隙間から漏れを生じ、突起内に空気を気密に封入することができないのは明らかであるから、請求人の主張は理由がない。
したがって、本件考案が、引用例1、2記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできない。
<4> 以上のとおりであるから、請求人の主張立証によっては、本件考案の登録を無効とすることはできない。
4 審決の取消事由
審決の認定判断のうち、(1)は認める、(2)<1>、<2>は認める、<3>、<4>は争う。
審決は、引用例1、2記載の考案の技術内容を誤認して、各引用例には本件考案の構成要件である「各突起の裏面は凹面となり」かつ「突起の裏面が基板裏面に開口してなる」点が記載されていないとの判断をし、また、引用例1、2記載の考案と本件考案の奏する作用効果との間に差異がないのに、本件考案は格別の作用効果を奏するとの判断をし、その結果、本件考案は各引用例記載の考案との対比において進歩性を有するとの誤った判断をしたものであり、違法として取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(各引用例に本件考案の前記構成が記載されていないとした認定判断の誤り)
<1> 引用例1記載の考案の構成要件は、実用新案登録請求の範囲に記載されているように、次のとおりである。
イ、 サンダル表層部に足底面形成にそってそうよう多数の突起を有する健康サンダルに於て、
ロ、 サンダル本体の表面に設ける突起板に突起を多数突設すると共に、
ハ、 この各突起を中空状とし、
ニ、 且つその頂面に中央部頂面が少し盛り上り、その外周部を薄肉状とした凹凸形状とした
ホ、 ことを特徴とする健康サンダル
この上記ハ、の構成要件の「この各突起を中空状とし」については、どのような構造による中空状であるかは何も限定していない。
引用例1の第3図に記載されるものは、その明細書に「次にこの考案の健康サンダルを図示した実施例によって説明する。」(3頁4、5行)と記載されているように実施例にすぎず、引用例1記載の考案における「中空状」がこれに限定されるものではない。
そして、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「1枚のEVA樹脂シートを成型して基板表面に多数の中空状の突起を突出形成し、該各突起の裏面は凹面となり、…該突起の裏面が基板裏面に開口してなることを特徴とする履物用上底板」と記載されており、本件考案における突起は、突起の裏面が基板裏面に開口していても「中空状」である。
したがって、引用例1記載の考案における突起板の突起の中空状は、本件考案の突起の中空状を含むものである。
これをなお具体的にみると、引用例1記載の考案の上記構成要件中「ロ、サンダル本体の表面に設ける突起板に突起を多数突設すると共に、」「ハ、この各突起を中空状とし」を現実にどのように形成するかについての実施例として、考案の詳細な説明には、「各突起4は第3図に詳示する如くその中味を空洞とした中空状で、このパイプ状の外周壁41は所要の荷重を支え、かつ適当な弾性と復元性、耐久性を具えるようにして肉厚を定める」(4頁4行ないし7行)、「この突起4の中空部には突起板と本体との接合時空気が封入されるものである。」(4頁15行、16行)と記載されている。
上記「突起4は…その中味を空洞とした中空状で」について、その製造方法を考えるに、考案の詳細な説明に「合成ゴム、合成樹脂をもって形成される突起板」(4頁3行)と記載されており、現実的には、合成ゴムや合成樹脂により中空状の突起のある突起板を形成するには、雄型と雌型を使用して成形するのが一般的であって、型から外された部材は表面に多数の突起があり、その突起が中空で下方が開口していることになる。突起内に空気が封入され、突起の下方が閉塞されたものを一体成形することは不可能である。
したがって、上記の型から外された部材は、本件考案の構成要件の「該突起の裏面は凹面となり」かつ「該突起の裏面が基板裏面に開口してなる」構成を具備するということができる。
そして、上記型から外された部材の突起内に空気を封入するためには、その突起板の裏面全面にシートを接着するか、または、上記「この突起4の中空部には突起板と本体との接合時空気が封入されるものである」との記載が示唆するように、突起板を直接本体の表面に接着して、突起の中空内に空気を封入するのである。
このようにして空気を封入する前には、引用例1記載の考案のものでも、本件考案に係る履物用上底板と同様に、「基板表面に多数の中空状の突起を突出形成し、該各突起の裏面は凹面となり」かつ「該突起の裏面が基板裏面に開口してなる」突起板が存在する。
<2> 引用例2には、凹凸表板が記載されているところ、該凹凸表板は、引用例2の第1図、第2図に記載された形状、及び、明細書の考案の詳細な説明に「この突起3はその内底部に於てすべて導通状態で空気は自由に移動するものである。」(3頁20行ないし4頁1行)と記載されていることから明らかなように、本件考案に係る履物用上底板と同様に、「各突起の裏面は凹面となり」かつ「該突起の裏面が基板裏面に開口してなる」ものである。
審決は、「凹凸表板の導通突起は、1つ1つの突起が凹凸表板裏面に開口しているものの、全体としてみれば、導通突起の外周部で凹凸表板と中敷基板とが気密的に係着されることにより導通突起内に空気を封入せしめられていることから、本件考案の裏面を基板裏面に単に開口して気密性を要しない突起とは構成を異にしている。」と認定しているけれども、これは、引用例2の凹凸表板の構成と本件考案の必須の構成を比較するものではなく、引用例2記載の凹凸表板の使用方法と本件考案の上底板を本底に縫着した場合の使用方法による作用効果の相違をいうものであって、両者の構成は前記の点において同一であること前述のとおりである。
<3> 以上のとおり、引用例1、2には、本件考案の構成要件である「各突起の裏面は凹面となり」かつ「突起の裏面が基板裏面に開口してなる」ものが記載されており、これが記載されていないとする審決の認定判断は誤りである。
(2) 取消事由2(作用効果の顕著性についての認定判断の誤り)
<1> 審決は、本件考案の奏する作用効果についての明細書の記載を引用して、本件考案が「格別な作用効果を奏するものである。」と認定したが、この「格別な作用効果」とするものは、出願当初の明細書(甲第10号証)には記載されておらず、拒絶理由通知に対する補正において、拒絶理由記載の引用例との相違をことさら強調するために記載されたものであり、また、本件考案に係る履物用上底板の一使用方法における作用効果を記載したものにすぎない。
<2> 本件考案の履物用上底板の使用方法は、その実用新案登録請求の範囲の必須要件として特定されていないばかりでなく、上底板の本底への取付方法が縫着に限定されるものではない。
本出願前から、履物においては、上板、中板、底板等の接合は、縫着、接着(貼着、高周波溶着、以下単に「接着」という。)、釘打ち接合がなされていた。(甲第5ないし第9号証)
すなわち、本件考案の履物用上底板の本底への取付けは、縫着しかできないものではなく、縫着もなし得るものである。このことは、本件考案を実施したものの写真(参考資料参照)に、上底板の裏面の大部分は中間部材及び本底と接着しており、突起内に空気が密封されていることが示されていることからもわかる。
本件考案の履物用上底板の本底への取付方法に対応して、各引用例との作用効果を対比すると、次のとおりである。
<3> 本件考案の上底板を本底に縫着した場合、
イ、 引用例1記載の考案の作用効果とほとんど変わらない。
本件考案の上底板の突起は、足裏を刺激するためのものであり、突起に体重がかかっても、突起内にある程度空気があって、突起が押しつぶれないことが必要である。本件明細書の「突起が破損すると空気は抜けて突起としての機能を果たさない」(2欄8行、9行)との記載はこのことをいっている。突起に体重がかかったときに、突起内に空気が封入されないと、突起が押しつぶれてなかなか復元せず、足裏を刺激するという突起の効果がなくなる。
引用例1記載の突起板は、図面には各突起の裏面が閉じられたものが示されているが、突起内の空気が突起の押しつぶれを防いで、足裏を柔らかく刺激することは本件考案と同様で、ただ各突起内の空気が移動しないだけである。
本件考案の上底板も、それに接合する本底も履物の部材であるので、ある程度たわむ必要があり、したがって、弾力性のあるものであり、上底板と本底とを縫着したとしても、上底板に体重がかかるとそれぞれの突起の下方開口縁部が本底上面を強く押して密接し、突起内に空気が密封される。
この状態は、引用例1記載の中身を空洞にした中空状の突起の場合とほとんど変わらない。したがって、その作用効果もほとんど変わらない。
ロ、 引用例2記載の凹凸表板の外周部を基板に気密的に係着させた場合の作用効果とほとんど同じである。
上記のように、本件考案の上底板と本底とを縫着したとしても、ともに弾力のある上底板と本底の縫着部分は強く密着するもので、本件考案の上底板の中空状の突起も、使用中体重がかかると突起が押されるので、中空中の空気は一部移動するかもしれないが、大部分の空気は中空中に残り、審決のいうように「1つ1つの突起が凹凸表板裏面に開口しているものの、全体としてみれば、導通突起の外周部で凹凸表板と中敷基板とが気密的に係着されることにより導通突起内に空気を封入せしめられている」こととほとんど変わらない。
ハ、 また、引用例2記載の凹凸表板の外周部を基板に縫着した場合と同一である。
引用例2は、明細書において、その凹凸表板の外周部を中敷基板と気密的に係着することを記載しているが、この凹凸表板は、その構成から必然的にそのような使用方法に限定されるものではなく、当業者であれば、従来の技術に基づいて、凹凸表板を直接本底に気密的係着以外の方法、たとえば縫着により取り付けることはきわめて容易になし得たことであり、その場合、本件考案の上底板を本底に縫着した場合と作用効果は同一である。
すなわち、この場合には、引用例2記載の凹凸表板が本件考案の「該各突起の裏面は凹面となり」かつ「該突起の裏面が基板裏面に開口してなる」点を具備するので、本件考案の上底板を本底に縫着した場合と全く同じ状態になるからである。
<4> 本件考案の上底板の全面を本底に接着した場合、
イ、 各突起のそれぞれに空気が封入されるので、引用例1記載の中身を空洞にした中空状の突起の突起板と同じ構造になるから、両者の作用効果は同じである。
ロ、 引用例2記載の凹凸表板を全面的に本底に接着することは、当業者にとってきわめて容易になし得たことであり、この場合に、本件考案の「該各突起の裏面は凹面となり」かつ「該突起の裏面が基板裏面に開口してなる」点を具備するから、本件考案の上底板の本底への全面的接着状態と同じ状態になり、両者の作用効果は同じである。
また、引用例2記載の凹凸表板の外周部を本底に気密的に係着させた場合であっても、足により加圧された突起内の空気は多少移動するが、大部分の空気はその突起内に残り、それによりその突起が足裏を刺激するのであって、作用効果はほとんど変わらない。
<5> 本件考案の上底板の外周部を本底に気密的に係着することは、当業者にとってきわめて容易になし得たことであり、この場合、
イ、足により加圧された突起の内部の空気は、多少移動するが、大部分の空気はその突起内に残り、その突起が足裏を刺激するのであって、引用例1記載の中身を空洞にした中空状の突起板の作用効果とほとんど変わらない。
ロ、引用例2記載の凹凸表板の外周部を、中敷基板に代えて直接本底に気密的に係着することは、当業者にとってきわめて容易になし得たことであり、この場合、両者の状態は同じであるから、その作用効果は同一である。
<6> また、引用例1記載の考案の実施例では、突起板を本底へ接着することを前提としているが、突起板を本底へ縫着することも、当業者であればきわめて容易になし得たことであり、本底に縫着すれば、本件考案の上底板を本底に縫着した場合と作用効果は同じであるし、本件考案の上底板を本底に接着すれば、その突起の中空内に空気が封入され、引用例1記載の突起板を本底に接着した場合と作用効果は同じである。
<7> 以上のとおり、本件考案が「格別な作用効果を奏する」とした審決の認定判断は誤りである。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。審決の認定判断は正当である。
2(1) 取消事由1(各引用例に本件考案の前記構成が記載されていないとした認定判断の誤り)について
<1> 原告は、引用例1記載の構成要件の「この各突起を中空状とし」について、どのような構造による中空状であるかは何も限定していないと主張する。
しかしながら、引用例1の明細書には、「この突起4の中空部には突起板と本体との接合時空気が封入されるものである。」(4頁15行、16行)と記載され、図面の第3図では突起が封止されているのであって、つまり、突起4には中空で突起板の裏面で開口している構成のものは含まないのである。
また、原告は、引用例1記載の突起は、製造工程において空気を封入する前には、本件考案の履物用上底板と同様に「該突起の裏面は凹面となり」かつ「該突起の裏面が基板裏面に開口してなる」構成を具備すると主張するが、製造工程における部分の一瞬の形態をとらえてそのような主張をすることは意味がない。
なお、上記引用例1の明細書の「この突起4の中空部には突起板と本体との接合時空気が封入されるものである。」との記載における「本体」とは、必ずしもサンダル本体を意味するものではなく、「突起板と突起本体との接合時空気が封入される」という解釈も可能である。
<2> 原告は、引用例2記載の凹凸表板の構成と本件考案の構成とを比較している。
しかしながら、本件考案は履物用上底板に関するものであるのに対し、引用例2記載の考案は履物用中敷に関するものである。本件考案の履物用上底板は、中敷基板のようなものとは関係のない独立した構成となされている。これに対し、引用例2記載の履物用中敷は、凹凸表板と中敷基板とが気密的に係着して導通突起内に空気を封入せしめることに特徴がある。このように、本件考案と引用例2記載の考案とは、基本的構成が全く異なっている。
<3> 以上のとおり、引用例1、2には、本件考案の必須の構成要件である「各突起の裏面は凹面となり」かつ「突起の裏面が基板裏面に開口してなる」点が記載されていないのであって、審決の認定判断は正当である。
(2) 取消事由2(作用効果の顕著性についての認定判断の誤り)について
<1> 本件考案は、本件明細書の考案の効果の項に記載されているように、「1枚のEVA樹脂シートを成型して中空状で裏面が開口した突起を表面に多数突出形成し、該中空状の突起は裏面が凹面となって空気を封入することなく1枚板状で該中空状の突起が足裏を弾性的に緩衝支持し、従来品のように封入空気を保持するための底面板および該底面板の完全な気密、密着による添設の手段や手間を必要とせず、封入空気による大きい空気抵抗の弾力ではない快い感触やマッサージ刺激などが得られ、上底板として本底への取り付けも厳密な気密接着などは必要でなく簡単な縫着でよいこととなり、上底板自体の製作は勿論、本底への取り付けも簡単となる」(4欄7行ないし19行)という作用効果を奏するものである。
<2> 原告は、本件考案の突起は、空気が封入されないと突起がつぶれて効果がなくなると主張する。
しかしながら、本件明細書には、「上記のような比率の関係を保持してEVA樹脂シートを成型することにより1枚のシートを基板1としてその表面に突設した中空状で裏面下部が開口した突起2の肉厚が必要最小限に保たれ、空気を封入することなく、又、そのための底面板も必要とせず1枚板状でその中空状の突起自体により足裏への弾性的な緩衝、支持がなされまた使用中に過度の圧力を受けて変形したり、磨耗による損傷などがなくなる。したがって、履物の本底への取り付けも気密を考慮する必要はまったくないものである。」(3欄18行ないし4欄3行)と記載されており突起には空気が封入されず、中空状の突起自体により足裏への弾性的な緩衝、支持がなされるのである。
<3> 原告は、本件考案の上底板を本底に縫着した場合のことを記載し、この縫着によっても上底板と本底との縫着部分は密着され、凹凸表板と中敷基板とが気密的に係着されることと同じになると主張し、また、本件考案の上底板の全面を本底に接着した場合の作用効果について主張するが、本件明細書には、上記<1>のように、「上底板として本底への取り付けも厳密な気密接着などは必要でなく簡単な縫着でよいこととなり、」と記載されており、本件考案は気密とか密着とかは全く必要でなく、原告のように考える理由は全くない。
<4> 原告は、上底板の外周部を本底に気密的に係着した場合の作用効果について主張するが、本件考案においては、気密接着する必要はなく、このような手段を採用することなどどこにも説明されていない。
むしろ、本件考案の履物用上底板を本底へ気密接着すると、本件考案の作用効果は奏しないのであって、つまり、本件考案は、引用例2記載の考案が有していた問題点を解決したものなのである。
<5> 以上のとおり、本件考案が「格別の作用効果を奏するものである。」とした審決の認定判断に誤りはない。
第4 証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
理由
第1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件考案の要旨)、同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
第2 そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。
1 成立に争いのない甲第2号証の2(平成2年実用新案出願公告第23127号公報)によれば、本件明細書には、本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
(1) 本件考案は、多数の突起を突出してなる靴やサンダルなどの本底上面に取り付けられる履物用上底板に関するものである。(1欄10行ないし12行)
(2) 従来の履物用上底板にも多数の突起を設けた構成のものがあったが、その大多数は、突起内に空気を気密に封入するため突起の下面を密封する底面板を不可欠の要素とする構成であった。(1欄14行ないし24行)
(3) このため、従来の履物用上底板は、2枚の部材を必要とするうえ、該2枚の部材を完全に密着添設する手間をも必要とした。また、突起に空気を封入しているので空気枕のような大きい抵抗を足裏に与え、しかも、突起が破損すると空気は抜けて突起としての機能を果たさないなどの欠点があった。(2欄4行ないし10行)
(4) 本件考案は、従来技術の多くの欠点を除去し、廉価に製作して足裏への感触、刺激効果の優れた上底板を提供することを目的とし、要旨記載の構成(1欄2行ないし7行)を採用した。(2欄11行ないし13行)
(5) 本件考案は、1枚のEVA樹脂シートを成型して中空状で裏面が開口した突起を表面に多数突出形成し、該中空状の突起は裏面が凹面となって空気を封入することなく1枚板状で該中空状の突起が足裏を弾性的に緩衝支持し、従来品のように封入空気を保持するための底面板及び該底面板の完全な気密、密着による添設の手段や手間を必要とせず、封入空気による大きい空気抵抗の弾力ではない快い感触やマッサージ刺激などが得られ、上底板として本底への取付けも厳密な気密接着などは必要でなく、簡単な縫着でよいこととなり、上底板自体の製作はもちろん、本底への取付けも簡単となるなど実用的価値の大きい履物用上底板である。(4欄7行ないし20行)
2(1) 取消事由1(各引用例に本件考案の「各突起の裏面は凹面となり」かつ「突起の裏面が基板裏面に開口してなる」構成が記載されていないとした認定判断の誤り)について
<1> 前示1(1)認定の本件明細書の記載からすると、本件考案に係る履物用上底板は、1枚のEVA樹脂シートを成型して基板表面に多数の突起を突出させたもので、その中空状の突起は、裏面が凹面となって空気を封入することなく1枚板状で足裏を弾性的に緩衝支持するものであると認められる。
<2> 次に、引用例1記載の考案の内容を検討するに、その構成要件が以下のとおりであることは、被告において明らかに争わないところである。
イ、 サンダル表層部に足底面形成にそってそうよう多数の突起を有する健康サンダルに於て、
ロ、 サンダル本体の表面に設ける突起板に突起を多数突設すると共に、
ハ、 この各突起を中空状とし、
ニ、 且つその頂面に中央部頂面が少し盛り上り、その外周部を薄肉状とした凹凸形状とした
ホ、 ことを特徴とする健康サンダル
この構成要件中、ハ、の「この各突起を中空状とし」の意味について検討する。
成立に争いのない甲第3号証(昭和61年実用新案出願公開第123701号公報)によれば、引用例1の明細書には、突起板に関して、「各突起4は第3図に詳示する如くその中味を空洞とした中空状で、このパイプ状の外周壁41は所要の荷重を支え、かつ適当な弾性と復元性、耐久性を具えるようにして肉厚を定める」(4頁4行ないし7行)、「この突起4の中空部には突起板と本体との接合時空気が封入されるものである」(4頁15行、16行)と記載されていることが認められ、この「中味を空洞とした中空状」という記載及び図面の第3図に裏面で封止された突起4が図示されていることから判断すると、引用例1記載の突起板の突起は、中空状の突起が裏面で封止されたものと解される。
一方、上記「突起板と本体との接合時空気が封入される」という記載からすると、接合前においては、たしかに、中空状の突起が裏面において開口している状態であると解されるが、同時に、その記載からして、突起が足裏を弾性的に緩衝支持するときには、既に、突起板は本体と接合されて、突起の中空部には空気が封入され、中空状の突起の裏面は封止されているものと解される。
原告は、前記記載事項は、引用例1記載の考案の実施例にすぎず、引用例1記載の考案の「この各突起を中空状とし」との構成要件は実施例に限定されるものでない旨主張する。
前記記載事項及び第3図が引用例1記載の考案の実施例に関するものであることは、原告主張のとおりであるが、前掲甲第3号証によれば、引用例1記載の考案は、従来の健康サンダルにおいて、台座と一体に成形された全突起がすべて中味の詰まった中実状のものであるために生じる欠点を解決して、各突起を中空状とし、かつその頂面を外周壁より薄肉状で中央部が少し突出した凹凸形状とすることにより、所要の強度と復元性をもたせるようにしたもの(1頁16行ないし2頁20行)であって、中空状の突起の裏面は封止されていることを当然予定しているものと解され、前掲甲第3号証を検討しても、本件考案のように中空状の突起の裏面を凹面とすることについての直接の記載はもとより、これを示唆する記載すら存しないから、引用例1記載の考案において、中空状の突起の裏面は封止されたものに限定されるというべきであり、原告の主張は採用できない。
このように、引用例1記載の突起板の突起は、突起が足裏を弾性的に緩衝支持するときには、その裏面は封止されているものであるところ、本件考案に係る履物用上底板においては、その中空状の突起が、裏面が凹面となって空気を封入することなく1枚板で足裏を弾性的に緩衝支持するもの、すなわち、裏面を基板裏面に単に開口して気密性を要しないものであって、両者は、その構成を異にするというべきである。
以上により、引用例1記載の突起板の突起の中空状のものは、本件考案の履物用上底板の突起の中空状のものを含むものであるとの原告の主張は、採用することができない。
原告は、引用例1記載の突起板は、空気を封入する前の状態では、本件考案に係る履物用上底板と同様に裏面は凹面で裏面に開口してなるものであると主張するところ、これは、被告が主張するように、単に製造工程における部分の1形態をとらえたにすぎないのであって、これをもって上記認定を覆すことはできない。
したがって、引用例1に、本件考案における「各突起の裏面は凹面となり」及び「突起の裏面が基板裏面に開口してなる」点が記載されているとすることはできない。
<3> 引用例2記載の考案の技術内容を検討するに、成立に争いのない甲第4号証(昭和61年実用新案出願公開第123714号公報)によれば、引用例2には、実用新案登録請求の範囲として、「履物内に挿入できるよう与め足形に裁断された中敷基板と、この表面にそわせ、かつ足裏面に接するようにして多数の突起を形成したる凹凸表板とよりなり、凹凸表板の導通突起の外周部と中敷基板とを気密的に係着して両板間の内底部が導通した突起を形成し、かつこの導通突起内に空気を封入せしめると共に、この導通突起外周接着部外周にそって少くとも一列状の独立突起を形成し、かつこの凹凸表板を加圧による導通突起の変形及び復元可能な材質にて形成して成る履物用中敷」(1頁5行ないし12行)と記載されていることが認められる。
この記載からすると、引用例2記載の履物用中敷では、上記凹凸表板と中敷基板との間に空気が封入されることにより凸の高さが保持されるものであり、その突起は導通突起で、1つ1つの突起が凹凸表板裏面に開口しているものの、全体としてみれば、導通突起の外周部で凹凸表板と中敷基板とが気密的に係着されることにより導通突起内に空気が封入されるものと認められる。そうすると、本件考案に係る履物用上底板の、中空状の突起が、裏面が凹面となって空気が封入されることなく1枚板状で足裏を弾性的に緩衝支持するもの、すなわち、裏面を基板裏面に単に開口して気密性を要しない突起とは、その構成を異にするというべきである。
原告は、この凹凸表板を中敷基板と切り離して単独に用いることを主張するので、この点について検討するに、引用例2の実用新案登録請求の範囲には、前示認定のとおり、「凹凸表板を加圧による導通突起の変形及び復元可能な材質にて形成して成る」と記載され、さらに、前掲甲第4号証によれば、考案の詳細な説明には、「靴即ち中敷に体重がかかると特に他部より強く体重がかかる箇所の導通突起例えば踵部や土踏まずより少し前方の足裏面の導通突起はこの体重により押圧力をうけると変形して偏平状となる。この時この導通突起内の空気はあまり体重のかかっていない箇所の突起内へ送られる。例えば土踏まずの箇所の突起はあまり体重による押圧力を受けていないのでこの部分の突起内へ空気が流入され膨張し、これにより土踏まずを下から強く押圧するようになる。」(5頁5行ないし13行)と記載されていることが認められる。このような記載からすると、引用例2記載の凹凸表板の突起は、体重による押圧力を受けると変形して偏平状となり、あまり体重のかかっていない例えば土踏まずの箇所の突起内へ空気が流入し、これを下から強く押圧するほど膨張するようなものであることが認められる。
しかも、このような状態になるのは、前示認定の実用新案登録請求の範囲の「凹凸表板の導通突起の外周認定のとおり、「凹凸表板を加圧による導通突起の変形及び復元可能な材質にて形成して成る」と記載され、さらに、前掲甲第4号証によれば、考案の詳細な説明には、「靴即ち中敷に体重がかかると特に他部より強く体重がかかる箇所の導通突起例えば踵部や土踏まずより少し前方の足裏面の導通突起はこの体重により押圧力をうけると変形して偏平状となる。この時この導通突起内の空気はあまり体重のかかっていない箇所の突起内へ送られる。例えば土踏まずの箇所の突起はあまり体重による押圧力を受けていないのでこの部分の突起内へ空気が流入され膨張し、これにより土踏まずを下から強く押圧するようになる。」(5頁5行ないし13行)と記載されていることが認められる。このような記載からすると、引用例2記載の凹凸表板の突起は、体重による押圧力を受けると変形して偏平状となり、あまり体重のかかっていない例えば土踏まずの箇所の突起内へ空気が流入し、これを下から強く押圧するほど膨張するようなものであることが認められる。
しかも、このような状態になるのは、前示認定の実用新案登録請求の範囲の「凹凸表板の導通突起の外周部と中敷基板とを気密的に係着して両板間の内底部が導通した突起を形成し、かつこの導通突起内に空気を封入せしめる」との記載から判断して、導通突起内に空気を封入した状態でのことと認められるから、空気を封入していない場合、これらの変形の傾向は一層大きいものと認められ、この凹凸表板を1枚板状で使用するときには、もはや足裏を弾性的に緩衝支持することはできないものと解され、被告の主張するように、凹凸表板のみではその作用効果を発揮しないものと解される。
そうすると、引用例2記載の凹凸表板の突起は、本件考案に係る履物用上底板の中空状の突起が、裏面が凹面となって空気を封入することなく1枚板状で足裏を弾性的に緩衝支持するもの、すなわち、裏面を基板裏面に単に開口して気密性を有しないものであるのに対して、その構成を異にするものと認められる。
したがって、引用例2に、本件考案における「各突起の裏面は凹面となり」かつ「突起の裏面が基板裏面に開口してなる」点が記載されているとすることはできない。
<4> 以上のとおりであるので、引用例1、2には、本件考案の必須の構成要件である「各突起の裏面は凹面となり」かつ「突起の裏面が基板裏面に開口してなる」点が記載されていないとした審決の認定判断に誤りはない。
(2) 取消事由2(作用効果の顕著性についての認定判断の誤り)について
<1> 前示1(5)認定のように、本件考案の履物用上底板は、1枚のEVA樹脂シートを成型して中空状で裏面が開口した突起を表面に多数突出形成し、該中空状の突起は裏面が凹面となって空気を封入することなく1枚板状で該中空状の突起が足裏を弾性的に緩衝支持し、従来品のように封入空気を保持するための底面板及び該底面板の完全な気密、密着による添設の手段や手間を必要とせず、封入空気による大きい空気抵抗の弾力ではない快い感触やマッサージ刺激などが得られ、上底板として本底への取付けも厳密な気密接着などは必要でなく、簡単な縫着でよいこととなり、上底板自体の製作はもちろん、本底への取付けも簡単となるなど実用的価値の大きいという作用効果を奏するものである。
そして、前示(1)認定のように、引用例1記載の突起板及び引用例2記載の凹凸表板は、本件考案における「各突起の裏面は凹面となり」かつ「突起の裏面が基板裏面に開口してなる」ものではなく、したがって、これらのものは、上記本件考案の作用効果を奏するものとは認められない。
なお、原告は、本件考案の履物用上底板は接着による取付けもなし得るものであり、このことは、本件考案を実施したものの写真(参考資料参照)に、上底板の裏面の大部分が中間部材及び本底と接着しており、突起内に空気が密封されていることが示されていることからもわかると主張するところ、写真(参考資料)のスリッパの一部のものに本件考案の登録番号を示す「PAT-1853182」の下げ札が付いていることは認められるが、該スリッパと本件考案との関係が不明であるうえ、参考資料からは、突起内に空気が密封されているか否かについて判断することができないので、上記認定を左右し得ない。
<2> 原告は、本件考案の上底板を本底に縫着した場合について、本件考案の上底板も本底も弾力性があるものであり、上底板と本底とを縫着したとしても、上底板に体重がかかるとそれぞれの突起の下方開口縁部が本底上面を強く押して密接し、突起内に空気が密封されると主張する。
しかしながら、本件考案における上底板は、前示<1>認定のように、その中空状の突起は、裏面が凹面となって、空気を封入することなく1枚板状で足裏を弾性的に緩衝支持し、封入空気による大きい空気抵抗の弾力ではない快い感触やマッサージ刺激などが得られるものであるうえ、さらに、体重がかかったとき突起内に空気が密封されるためには、それに適する材質の本底を必要とするところ、本件考案は、そのような本底を考案の構成に欠くことができないものとしておらず、原告のこれらの主張は根拠を欠くといわざるを得ない。
そうすると、以上の事実を前提として、本件考案と各引用例記載の作用効果が同一であるとする原告の(2)取消事由2、<3>イ、ロ、の主張は採用することができない。
また、原告は、引用例2記載の凹凸表板を直接本底に気密的係着以外の方法、たとえば縫着により取り付けることはきわめて容易になし得たことであり、この場合、本件考案の上底板を本底に縫着した場合の作用効果と同一であると主張する。
しかしながら、前示2(1)<3>認定のように、引用例2記載の凹凸表板は、空気を封入しないときは、その変形の傾向が大きく、該凹凸表板を1枚板状で使用するときには、もはや足裏を弾性的に緩衝支持することはできないものと解され、凹凸表板のみでは作用効果を奏しないのであるから、気密性の点で、上記のように本底に縫着して使用し得るものとは考えられず、本底に縫着しても、本件考案の上底板を本底に縫着した場合と同じ作用効果は得られるとは認められない。
したがって、原告の(2)取消事由2、<3>ハ、の主張も採用することができない。
<3> 原告は、本件考案の履物用上底板の全面を本底へ接着する、あるいは、その外周部を本底へ気密接着することが可能であると主張する。
しかしながら、本件考案の場合、前示1(4)(5)認定の構成及び作用効果から判断して、上底板を本底へ全面接着したり、その外周部を本底へ気密接着したりする必要はなく、このような手段を採用する構成のものとは認められない。
そうすると、以上の事実を前提として、本件考案と各引用例記載の作用効果が同一であるとする原告の(2)取消事由2、<4>、<5>の主張も採用することができない。
<4> また、原告は、引用例1記載の突起板を本底へ接着でなく縫着することも、当業者であればきわめて容易になし得たことであり、本底に縫着すれば、本件考案の上底板を本底に縫着した場合と作用効果は同じであるし、本件考案の上底板を本底に接着すれば、その突起の中空内に空気が封入され、引用例1記載の突起板を本底に接着した場合と作用効果は同じであると主張する。
しかしながら、引用例1記載の突起板の突起の中空状は、本件考案の突起の中空状のものを含むものでないことは、前示2(1)<2>認定のとおりであって、構成の異なる突起板を本底へ縫着しても、本件考案の上底板の縫着による作用効果と同一になるとは認められない。
また、本件考案は上底板を本底へ接着したりする必要はなく、このような手段を採用するものとは認められないことは、前示<3>認定のとおりであり、これを前提に引用例1記載の考案と本件考案の作用効果の異同を論ずることはできない。
したがって、原告の(2)取消事由2、<6>の主張も採用することができない。
<5> また、被告が拒絶理由に対する補正において、本件明細書の作用効果を付加訂正したからといって、そのことが上記認定を左右するものではない。
3 そうすると、原告の審決の取消事由の主張はいずれも理由がない。
第3 よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)
別紙図面1
<省略>
別紙図面2
<省略>
別紙図面3
<省略>